かき混ぜて、醤油を4滴

推しにズブズブな人

髪を30cm切った話

 

 

中学生の時、好きな人が出来た。何としてでも付き合いたくて、相手の理想になろうと全力で努力していた。

 

「元気な子が好き」と聞けばばるべく元気に振る舞うようにし、部活で忙しい相手へいつでも宿題を見せられるようにしていた。

そして「ショートカットの子が好き」と聞いて、髪を切った。毎日ポニーテールだった髪の毛は顎くらいまでになった。周りからの評判はあまりよくなかったけれど、私は満足していた。

 

 

 

結局その人との恋愛は叶わず、数年が経った。連絡を取ることも無く、私はまたいくつかの新しい恋愛を経た。

そして、ひょんなことから推しの沼に落ちた。推しのことは1年ほど認知していたけど、別段意識もしていなかった。自分の現状が本当に辛くて逃げ出したかった当時の私にとって、推しの役は、演技は、あまりにも眩しかった。

 

推しの姿を追い続け、あっという間の数ヶ月。現場に足を運び、友人と語り合い、チケット戦争に一喜一憂する。頑張ろうという気持ちが溢れて止まらない。おかげさまで人生の山場も乗り越えて、平穏で楽しい日々を送ることが出来ている。

 

生で見る度に好きで好きで堪らなくなって、いつか目にした「ショートカットの子が好き」という文字が頭にこびりついて離れなくなった。付き合える可能性がまっっっったくないことは百も承知だ。ただ、応援する側としては少しでも『理想の姿』でいたかった。

 

ちょうど推しの共演者がショートカットの女性だったので、それを目指してカットを頼んだ。似合うかどうか不安がる私に、迷うなら辞めた方が安心だとアドバイスをくれる担当美容師さん。勝手に推しへの気持ちを試されているような気がして、シャンプー中に覚悟を決めた。

 

結果、自分の理想ピッタリの仕上がりにしてもらった。周りからの評判もそこそこで、自己満足的に推しへの愛を深めた。勝手に。

 

そして、自分は中学生の時から何も変わっていないことを痛感した。理想の『器』になって満足して、『中身』は変化がない。30cm髪を切って軽くなったぐらいじゃ簡単に変われっこない。

でもそれでいい。今の自分を見て、またモチベーションは上がっていく。

 

そしてまた、私は働く。推しに会うお金を作るために。